とがめも

巨人の肩に立つ。民間病院の看護師、大学院生。すぐ忘れるので、学習置き場として

【RCT予備調査】日本における入院心不全患者に対する心不全セルフケアプログラムの効果

入院心不全患者に対する心不全セルフケアプログラムの効果に関するRCTを読みましたので、共有します。

 

【要約】

①入院心不全患者に対する包括的チームによる心不全セルフケアプログラムを開発した。

②このプログラムによって、主要アウトカムである心不全セルフケア行動については、研究開始時期と比較して、全体として影響はなかったが、減塩食に関して改善した。

心不全知識については、6ヶ月間以上改善を維持する傾向にあった。

④心血管死や心不全再入院の発生については、6か月時点において、介入群で有意に低かった。

 

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東京大学の加藤尚子先生の2016年公表の論文。

IF:2.4

 

【PICO】

D:単施設RCT

P:20歳以上の附属病院に入院した心不全患者

I:心不全セルフケアプログラム群(入院中の介入)

C:通常ケア群

O:心不全セルフケア行動、中長期的にはなし

心不全知識、中長期的に改善する傾向を示した。

心血管死/心不全再入院率、2(0.6-2.0)年間のフォローアップで介入群で有意に少なかった(HR0.17, 95%CI:0.03-0.90, P=0.04, Ajustment by age, sex, BNP, Cox回帰分析)。

 

【研究開始時における患者特性】

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【介入群の心不全セルフケアプログラムの項目】

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教育プログラムと教材は、Kato N, et al. Nurs Health Sci, 2012, 156-164.から。

プログラムに関わった職種は、薬剤師、管理栄養士、看護師である。

看護師の指導時間は、68±32分間、1〜2回。

 

【結果】

・主要アウトカムである心不全セルフケア行動尺度(EHFScBS)

(自記式による12項目の質問紙。回答選択肢は1〜5で、1が良い、5が悪い。合計点数範囲は12〜60点。点数が高いほど、セルフケア行動が悪いことを示す。)

研究開始時に、両群間に差はなし

1ヶ月後は、両群とも、スコアが改善している。

6ヶ月後は、介入群ではスコア改善が継続しているが、対照群ではスコアがベースラインに戻っている。

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心不全セルフケア行動尺度の推移

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・二次アウトカム

心不全知識スケール

(自記式による15項目による質問紙。回答選択肢は「はい」「いいえ」「わからない」。合計点数範囲は0-15点。点数が高いほど、心不全に関する知識は良好。)

研究開始時に、有意差はあるとはいえないが、差があるようにみえる。

1ヶ月後は、介入群が、研究開始時及び対照群と比較して、点数が有意に高い。

6ヶ月後は、両群間に差があるとはいえない。対照群では、研究開始時と比較して点数が高くなっている。

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②心血管死/心不全再入院率

心不全セルフケアプログラムは、心血管死/再入院率を有意に低減させた。Cox回帰分析結果から、HR0.17, 95%CI:0.03-0.90, P=0.04(年齢、性別、BNPで調整済)。

 

3名が他の病院に入院したので、除外。

2(0.6-2.0)年間の観察期間において、介入群から2名(14%)、対照群から7名(48%)が、心不全増悪による再入院が発生した。

入院期間中に、対照群から1名が死亡した。

全死亡に関しては、対照群から1名が、癌による死亡が発生した。

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【感想】

・著者について

著者自身が開発したプログラム、教材(Kato N, et al. Nurs Health Sci, 156-164, 2012.)、心不全セルフケア行動尺度(Kato N, et al. Eur J Cardiovasc Nurs, 284-289, 2008.)、心不全知識スケール(Kato N, et al. Int Heart J, 228-233, 2013.)を用いたRCTの予備調査であった。

EHFScBSを開発したスウェーデンのPro. Jaarsma Tにリサーチフェローに赴いていた経歴をもつ。日本における心不全・看護の領域では今後も注目される方だろう。

 

・β遮断薬、ARB/ACEIの処方率が高い。

2000年代後半の心不全疾患管理プログラムが死亡や再入院に関してネガティブスタディが見受けられるという指摘がある。しかし、薬物療法が死亡/再入院率への影響が大きいことも考慮が必要だろう。薬剤処方率は、1998年(Ekman I, et al, Eur Heart J, 1998. Cline CMJ, Heart, 1998.)でβ遮断薬10〜20%、ARB/ACEI15〜40%であることに対して、本調査(2010年)はβ遮断薬80〜90%、ARB/ACEI85〜95%である。

心不全における患者教育関連のIFが2点台が多いこと理由として、上記の如くハードエンドポイントを主要アウトカムとして設定しづらいことではないかと愚考する。

下図:薬物処方率と経時的変化

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〈Oyanguren J, et al. Rev Esp Cardiol, 900-914, 2016.から引用〉

 

高齢者、認知障害合併、MCI合併を検討すべき

入院心不全患者を対象としていることは、とても参考になる論文である。しかし、心不全の有病率は加齢とともに増加し、認知障害の合併も多い。

今後は、高齢者、認知障害合併、MCI合併患者に対する調査が求められると考える。

下図:AHAによる心不全有病率と加齢の関係

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〈Benjamin EJ, et al. Circulation, 361-376, 2018.から引用〉

 

下図:心不全と非心不全患者での認知障害有病率に関するForrest Plot

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〈Cannon JA, et al. J Card Fail,464-475, 2017.から引用〉