とがめも

巨人の肩に立つ。民間病院の看護師、大学院生。すぐ忘れるので、学習置き場として

慢性心不全患者における筋消耗-SICA-HF結果から(EHJ2013)

心不全患者における併存疾患に関する国際的調査SICA-HFについて論文を読みましたので、振り返り。

 

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https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23178647

 

 

・感想

SICA-HF2013論文の生理学的な考察として、心不全に限らず慢性疾患を有する患者において、muscle wasting(筋消耗)は、炎症性サイトカインの影響による異化亢進によって発生すると示されていました。
個人的な感想として、慢性疾患急性増悪の初期対応としての安静による骨格筋量・筋力低下に加えて、目に見えない全身炎症性疾患としての骨格筋への影響が相加効果的にADL低下に寄与している可能性があることを感じる論文でした。

心不全を含む慢性疾患では、目に見えない影響で骨格筋が変性して、ADL低下し得る。

基礎と臨床がMixedされているSICA-HFの今後の結果が、筋消耗のメカニズムを更に明確することが期待されており、運動や栄養に大きな示唆を得る可能性があると、勝手に思っております。

こういったヒトの動きに関する論文を読むのは、好きだなと思いました。

 

 

心不全における骨格筋変性に寄与する因子

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 ↓引用元は、SICA-HF論文のEditorial commentから。

academic.oup.com

 

 

・論文アブストラクトの紹介

【背景】

慢性心不全患者における骨格筋減少の有病率と臨床的影響を検証することを目的とした。

 

【方法】

デザイン:横断研究

P:ドイツ単施設から、200名の慢性心不全患者を前向きに登録した。

骨格筋量はDEXAを用いて上肢と下肢を合計して評価し、筋力は上肢と下肢を測定した。

全ての研究対象者は、6分間歩行試験と4m歩行試験、トレッドミル(修正Naughtonプロトコル)によるCPXを行った。

筋消耗の定義は健常者における筋消耗診断の指標である(Morley JE, et al.J Am Med Dis Assoc.2011;12:403-409.)、18-40歳成人における骨格筋指数平均値-2標準偏差以下を用いて、健常加齢による筋消耗(Sarcopenia)と診断とした。

変数については、連続変数は平均値と標準偏差もしくは中央値と四分位点で示し、カテゴリカル変数は度数と割合で示した。血清データ(IL-1、IL-6、TNF-α)は非正規分布であることから、Logへ変換して正規分布とした。

解析はStatviewを用いて、ANOVA、対応のないt検定、Fisherの正確検定、ピアソンの相関分析、ロジスティック回帰分析を適切に行い、両側検定、有意水準は5%とした。

 

【結果】

筋消耗は39名(19.5%)の研究対象者に認めた。

E:筋消耗を認めた対象者(年齢70.8±8.3歳、男性94.9%、BMI24.5±4.5kg/m2、HFpEF34.9%)は、

C:筋消耗がない対象者(年齢66.0±10.6歳、男性75.6%、BMI29.9±4.7kg/m2、HFpEF34.9%)と比較して、

O:

握力と大腿四頭筋筋力が有意に低く(p<0.05)、PeakVO2(1173±433 vs. 1622±456 ml/min, p=0.005)も有意に低く、運動時間が短かった(7.7±3.8 vs. 10.22±3.0分, p=0.001)。加えて、筋消耗群で、6分間歩行距離(p=0.005)と4mのGait Speed(p=0.002)は低かった(Figure1,2参照)。

血清インターロイキン6(IL-6)は、筋消耗群が非筋消耗群で明らかに上昇していた(2.6±4.0 vs. 4.4±5.4, p=0.001)。

「PeakVO2が中央値以下であること」を目的変数としたロジスティック回帰分析(調整因子:年齢、性別、NYHA、ヘモグロビン、LVEF、6分間歩行距離、併存疾患の数)によると、筋消耗(OR:6.53, 95%CI:1.56-27.437)が独立して関連していた(Table4参照)。

 

【結論】

慢性心不全患者において、筋消耗は併存疾患として頻度が高い。筋消耗を有する対象者は、運動耐容能と筋力の減少、重症な患者を呈していた。

 

 

・SICA-HFに関するその他情報

SICA-HF研究デザイン(Stefan von Haehing, et al.JCSM.2010;1:187-194.)を読んだところ、この調査は心不全患者の併存疾患に関する6カ国多施設における4年間のコホート研究であり、脂肪組織や骨格筋組織を生検して解析する基礎研究学者が加わっているという点で、とても新規性豊かな研究だと思います。研究グループはJCSMの編集委員の方々の共同研究ですね。

臨床研究登録データベースを確認したところ、2015年に主要アウトカムに対する患者登録が完了しているようですので、そろそろSICA-HFのCohort Studyとしての結果が公開されるころかもしれませんので、個人的にかなり注目しています。
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/record/NCT01872299…

 

 

加えて、登録完了報告もありました。

cordis.europa.eu

登録患者は、

慢性心不全1462名以上

2型糖尿病199名

健常者173名

 

生検は、

骨格筋生検127件

脂肪組織生検92件 

以上です。

お読みくださって、ありがとうございました。